103人が本棚に入れています
本棚に追加
(純情恋歌)
風がつめたい。まだ夏だろとタカをくくり半袖で出てきてはみたが、やはりまだ人肌には厳しく生身ではキツいものがあって。
先ほどまで右手にあった温もりも、今はもう冷え切っていて。その手のひらは、風に晒されている。
血が流れる膝。風が染みて、時折激痛を巻き起こす。ガーゼもばんそうこうも貼らないままなのだから、当たり前だろうけど。
『って、私何でこんなセンチメンタルなの』
「自分でツッコミ入れた!?」
『あー、ツナ』
なんでここにいるの?っと首を傾げて問えば、ツナはいきなり立ち上がって何かを言おうとする。
何さ、言いたいことがあるなら言いたまえよ。
キッと敵視するようにツナを見上げ睨みを効かせれば、ツナはごくりと唾を飲み込み肩を震わせた。
どこか必死なツナ。沢田、つなよし。
ここは学校の玄関にある階段の端っこ。2人ぴったりと寄り添うように座って、何だか仲良しさんみたいね。
「‥‥っ血!」
やっと声を出したかと思えば、たった一文字。一声。
でもまぁ、ツナの必死さはわかったから、そこは弄らないであげるけど。
ふと見下ろせば、結構皮がべろんと剥がれ広い範囲で血を滲ませている、醜い自分の膝。
そっと手を伸ばし触れてみれば、未だに乾かない血がべっとりと指について。
『ツナ、どうしよう』
「どうしようじゃないよ、全くー!!」
わしゃわしゃ、と髪をかきむしりツナは叫ぶ。あははと笑えば、ツナは呆れたような顔をし溜め息をついた。
『追いかけたらね、突き飛ばされて、コケちゃったの』
乱暴よね。
ひゅう、と2人の微かな間を吹き抜ける冷たい風。季節の変わり目、ってこうやって感じるんだ。初めて知ったよ。なかなか風流だね。
隣に座るツナを纏う空気が微かに変わり、重くなったように感じる。ふと視線を向ければ立っていたはずのツナは私の横に腰を下ろし、俯いたまま両膝に拳を乗せている。
ツナ、治療してくれるんじゃないの?っと声を掛けても反応すらしない。
『つな?』
泣いてるの?
そっと頬に手をやると、微かな湿り気を感じた。
(幸せにするからと、譲ってやったのに)
(泣きたいのはお前の方だろ?)
(‥ごめん、俺、泣き虫だ)
(ツナは、優し過ぎる)
(でも、まだ)
(甘えちゃいけない、)
.
最初のコメントを投稿しよう!