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(聞こえない声)
親に金のなる木としか思われなくなったあたし。三日三晩働き通して、汗水流して。手元に残るのは、来月の分の交通費。
金に困っている影など毛ほども感じられない親に、全て絞り取られて。
家の為になるなら、って思ってた。
でも、遊び呆ける親の姿を見て、あたしの金を、何に使ってんの?って。
ふつふつと、湧き上がる憤り。
それに身を任せて、私は、家を飛び出した。
夜の歌舞伎町は昼間のように明るく、賑わっていた。途中変な客引きに絡まれながらも、ひたすら前に進んで。
俯いたまま歩いていたから、前に何があるか、なんてわからなくて。
どん、と何かに顔が直撃し、漸くあたしの歩が止まる。少しだけ痛む鼻を抑えて上を見上げると、今度は、身体の全機能が停止した。
「…オイ、」
『……っはい!』
風に揺れる無造作な黒髪、前髪から覗く鋭い目。そして何より、この真っ黒い制服。
「お前…こんな所で何してやがる」
鬼の副長と言う名で有名な、
寧ろあたしの店の常連さんっ!
『いえ何も!』
「ブッサイクな泣きっ面してか」
『不細工は余計です!』
「…で、どこ行こうとしてたんだ」
『………さぁ?』
「……は?」
『…宛もなく』
「…んの、アホが!!」
『ひぃ!』
がしりと両肩を掴まれ、険しい顔付きをした相手との距離がぐんと縮まって。
怒られるのも当たり前です、知り合いじゃなくったって、今の時間帯あたしが外をふらつくなんて、思いっ切り補導の対象ですから。
あぁ、ごめんなさい許してくださいと頭の中で叫んでみるけれど、口に出さなきゃ相手に伝わらない訳で。
涙でぐちゃぐちゃな顔が、更に歪んだ気がして。辺りの薄暗さに、心から感謝をした。
(一応あたしも女です、土方さん)
だから逆に、土方さんがどんな顔をしていたなんて、わからなかったけど。
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