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(そっと天秤にかけて)
どくんどくん‥
「血圧--…上142‥下86‥」
どくんどくん‥
「脈拍‥‥‥72」
額に触れるひんやりとした物。
閉じていた瞼をゆっくりと開くと、見慣れた天井、そして視界の隅っこに茶色い陰。
少し目線をずらせば、その正体が明らかになる。
『たいちょ‥‥?』
口を開けば自分でも驚くほどのか細い声しか出ない。それでも必死に絞り出し、彼の呼び名を呼ぶ。
ぴくりと肩を震わせ、隊長は静かに視線をこちらに向けた。
紅色の瞳が私を写す。握られていた手首はそっと離され、微かな温もりだけが残り。
少しだけ上半身を上げれば、今私が置かれている状況がわかる。
『何で私、寝てるんですか?』
ぐしゃり。
上半身を持ち上げたことにより、額に乗せられていたのだろう氷のうが布団の上へと滑り落ちた。
それを拾い上げ、てのひらで遊ぶ。
隊長は小さく息を吐くと私から氷のうを取り上げ、そして私の肩を押し再び身体を布団の中へと沈めさせた。
突然倒れでもしたのだろうか、弱々しくそれに従う私の身体。何だか信じられなくて、目を見開く。
「血圧高いなんて、アンタ一体いくつなんでさァ」
『血圧?』
「40代のオバチャンと同じくらいらしーです、今のアンタ。」
『う゛そだっ‥!!』
「フラフラするだろィ?んでもって、ホラ。また鼻血」
これで拭きなせぇ、っと隊長は近くにあった箱ティッシュを差し出してくる。
何事かと思いながら素直にそれを受け取った瞬間、何かが頬を伝い流れる感触。
ハッとしてティッシュを鷲掴み、その違和感を取り除くべく頬にティッシュを這わせる。
ねっとりとしたその感覚に、不快以外の何があろうか。
『……っで、何故隊長が介抱してくださってるんですか』
「ヒマだから」
『サボリの口実に私を使わないでください』
「チッ‥‥」
『‥‥‥』
はぁ、と隊長がまた息を吐く。
こっちが溜め息も舌打ちもしたいよ、っと疲れ果てた気持ちを全て込めてみるが、一応彼は上司なのでそれは堪えてみる。
広い和室には私と隊長のふたりきり。いつもは騒がしい屯所も今日はやけに静かだ。
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