第一章 やんちゃくれ

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警察官の姿を見た金山は顔色が一気に変わった。     お、おい! この喧嘩、一時お預けや。 きっちり話つけにくるさかい待っとれや。     金山は捨て言葉を吐いた。 完全に浮き足だっていた。     おい、坊主。 売った喧嘩、ほったらかしかい!? デコスケ(警察官)怖うて極道しとる訳やないやろな? こらっ!     喧しい、お前も脛に一つや二つ傷もあるやろが。     そう叫ぶが早いか金山と小山は橋本達の方向へ形振り(なりふり)構わず走りだした。 二人共にジャンバースーツに白のエナメルの靴、パンチパーマ姿が走って逃げる様子は滑稽そのものだった。 橋本達と擦れ違いざまに一言吠えたのはせめてもの意地だったのだろう。 しかしそれは負け犬の遠吠えにしか見えなかった。   親方二人を失ったガチャの連中は正に借りてきた猫である。     こら!お前ら何をしとるんや!     入れ違いに警察官が塊に突っ込んできた。     何をしとるんや。 通報あったぞ。     パトカーも到着した。     気がつくと警察官の数は8人ほどにもなっていた。 制服警官の他に刑事までが駆けつけていた。     おぉ、誰かと思うたら 榊やないけ。 昼からえらい物騒やないか。 出入りでもあるんかい?!      あっ、立花のおやっさん、ご無沙汰しとります。     榊の顔は菩薩のように緩やかに変わっていた。     何があったんや? まさか、こんな若い奴ら相手にゴロ巻いてたんやないやろなぁ?     立花は浪速警察の暴力担当の刑事だった。 風体はどちらが極道かわからないほど厳つかった。   ガチャの連中達の姿は一気に減っていた。     おやっさん、面倒かけてすんまへん。 若い奴らが世間の皆さんにご迷惑かけとるみたいなんで治めてましてん。 手間かけてもうて申し訳おまへん。     榊、まぁお前の言うことなら俺ものんだるけど、あんまり面倒かけるなよ。 すぐに解散させろや。 あっ、ほんでなぁ後からうちの会社(浪速署)に顔出してくれや。 格好つかんでなぁ。     わかっとりまっ。 すぐに解散させまっさかい。 その足で寄せてもらいまっ。     立花は片手を上げ他の警察官達に撤収の合図をした。     ほな、待っとるぞ!     へぇ、後ほど。 ごめんやす。     あまりにも簡単なやりとりに俺達は唖然としていた。
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