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俺達は心斎橋筋から宗右衛門町を堺筋の方向に歩いた。
街は間違いなく目を覚まそうとしていた。
街自体が不夜城へと身繕いを始めたのだ。
行き交う人達は活き活きとしていた。
純ちゃん、俺はこの街嫌いや…。
タケシが無表情で呟いた。
何で…。
俺は聞くのを途中で辞めた。
タケシにとっては無粋な質問だったからだ。
普段から滅多に身の上話などしないことはわかっていた。
自分にとって嫌な質問には眉毛を一度上下させるだけで口を開くことはなかった。
純ちゃん、俺はこの街早く出ようと思うてるんや。
もっと綺麗な水がええわ。
この街は泥んこや。
動いたら動くほど泥々になりよる。
なぁ、純ちゃん。
近いうちに、水の綺麗なとこ行こや。
タケシが珍しく語った。
普段は、ほぼ8割ほどが単語と短文で多くを語らない。
タケちゃん、先に上がっといて。
ジュース買うていくわ。
冷蔵庫何も入ってなかったし。タバコある?
タケシは小さく頷いた。
タケシの誘いをわざとはぐらかした。
俺は泥々のこの街が好きだったからだ。
返事を誤魔化す為に買い物に行った。
当時コンビニはまだまだ少なく、俗に言う何でも屋とかお菓子屋さん(駄菓子屋)タバコ屋がジュースや簡単な日用品を揃えていた。
おばあちゃん、おはよう。
純ちゃん、どうしたんや?
バリッと決めて!
おばちゃん、毎日決めとるがな。
ショッポ(ショートホープ)4つとなぁ、セブンアップ2本とチェリオ2本。
後で瓶持ってくるわ。
いつでもええがな。
ほらオマケや。
そう言ってあんパンを一つ手渡してくれた。
おばちゃん、いつもありがとうなぁ。
閉店前の余り物ではあったが、ことあるごとに何かを持たせてくれた。
ありがたかった。
俺はこんな街が好きだった。
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