5396人が本棚に入れています
本棚に追加
その当時は携帯電話のような文明の利器など影も形もなかった。
連絡は家にある黒の固定電話と公衆電話だった。
ポケットベルでさえ、まだ活躍の場を与えられていなかった。
俺は千日前通りを西へ走った。
相合橋を越え戎橋筋までくると、それまでの緩やかな空気が乱れてきたのがわかった。
身に付いた五感にピリピリと触るものがあったのだ。
さっき俺を迎えにきた橋本がママチャリを左右に揺さぶりながらこちらへ向かってきた。
キーッ、ガッチャン!
信号待ちをしていた俺の横に並べて止めてあった自転車の列に突っ込んだ。
橋本!
慌てるな。みんなどこやねん?
純ちゃん!純ちゃん!
大阪球場や。
みんな大阪球場に集まっとる!
向こうはガチャのヤクザまで来とるがな。
ほんで、どんな状況やねん?
向こうが12~3人おるわ。こっちは8人。
他の奴らは多分文楽劇場に集合かけたから向こうにおると思うわ。
純ちゃん、ガチャの2つ上の金山って知ってるやろ?
金山って東條組にいった、あの化けもんか?
何で金山がでてきとるねん?
わからん!
とにかくヤバいわ。あの金山やったら何するかわからんで、純ちゃん。
あかんがな。
ほんでタケシ着いたんか?
来てる!
とにかく文楽劇場の奴ら呼んで来るわ。
橋本!
ついでに誠次さんにも連絡入れろ。
俺は大阪球場向かうから。
いつもなら、小競り合いで終わるガチャとの揉め事も今日に限っては無事に終わりそうにはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!