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『矢嶋 剛士』
俺と同じく18才。
東大阪の布施出身。
中学時代から喧嘩に明け暮れ近隣のかなりの中学校を仕切っていた。
勉学も非常に高いレベルに位置していたが、複雑な家庭環境もあって中学を卒業後一人でミナミへ出て生活を始めた。
担任の教師は父親に何度も進学を進めたが、その父親は義務教育を卒業すれば自力で生活をしろという考えの持ち主だった。
喧嘩の強さと機転のきく頭の切れに回りの者はことごとくひれ伏した。
金山先輩、ヤクザの話はヤクザ同士で話してくださいよ。
俺達はどこの傘の下にも入るつもりはないですから。
ビラ貼りは、言わば俺達の食い代(しろ)なんでね。
箸と茶碗無くすわけにはいきませんから。
おぃ矢嶋。
お前もしっかり秋山のケツ舐めとるやないけ!
大きな口叩くんやないぞ!
金山先輩、それは違いますわ。
秋山さんは俺等の雇い主っちゅうことですわ。
タケシの言葉はいつも冷めていた。
義理人情で物事を考える人間ではなかった。
損得勘定と利害関係には鋭く反応もした。
一人で生きていく術を既に身に付けていた。
金山の顔が段々と高潮していくのが周りの者全てが感じ取っていた。
ミナミの連中もガチャの連中も二人の掛け合いを息を凝らして見守るしかなかったのだ。
異様な殺気を放つ金山と、氷のような冷徹なタケシはまさに一触即発の間合いに入っていた。
ヤバい、このままやったら大変なことになる。
金山も引く訳はないだろう。
いつものやんちゃくれ達の小競り合いでは済まない。
乱闘になればお陽さんも高いこの時間、デコチン(警察)も動く。
俺は色んな思いが駆け巡った。
ギシギシと張り詰めた空気が時間の動きを止めたように感じた。
固まった空気がザッと動いた。
おい、おい待たんかい!
お前等、手出すなよ!
地響きのするような低い声が俺達を包んだ。
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