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紫「あぐッ!」
紫はクロツキの右肩から生えたように見えた手に殴りとばされた。
クロツキ「速度はいらない」
紫は反応できなかったわけではない。
クロツキ「振れば当たるのだから、速度はいらない」
攻撃の直前に五千メートルほどすきまで移動した。
クロツキ「距離は意味がない」
さらにすきまで防ごうともしたし、体の表面には境界の能力で防御も施した。
クロツキ「伸ばせば届くのだから、距離は意味がない」
なのに…………万全の状態だったはずなのに
クロツキ「能力は関係ない」
あの肩から生えた手に触れた瞬間
クロツキ「触れれば消えるのだから、能力は関係ない」
すべての防御が消えた。
クロツキ「戦略は必要ない」
クロツキは淡々と喋りながら紫に近づいていく。
クロツキ「この右手を振るえば終わるのだから、戦略は必要ない」
クロツキは五千メートルほどの距離を三十秒ほどで移動して、紫の前に立つ。
クロツキ「ふむ、まあこんなものだろう。
不甲斐ないとは言わない。奇策や相性で覆すなど、ある程度拮抗した状況でないと無理だ。
僅かな差を埋めるのが策であり相性。最初から絶望的に開いている差をそれらで埋めるのは不可能というものだ」
普通じゃない、と紫は思う。
後出しジャンケンどころではない。
クロツキが手を出した地点でクロツキの勝ちなのだ。
こちらがグーを出そうが、パーを出そうが、チョキを出そうが、クロツキの五本の指がどんな形を作っていようが関係ない。
クロツキが挑戦した地点で勝ちなのだ。
RPGで例えると、戦闘でのコマンドが
たたかう
まほう
どうぐ
たおす
となっているようなものである。
クロツキ「故、分からない。よほどの馬鹿でない限り、そんなことは分かっているはずだ。
では、何故と。もしかして貴様、殺されるのが目的だったりするのか?」
その問いかけに紫は笑って返した。
紫「いいえ、彼が来るまで私が生きてることが勝利への条件」
クロツキ「彼?」
クロツキがそう言った直後、背後から斬撃が襲いかかった。
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