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「ねえ?しばらくの別れだから、君の顔見せてよ。一度で良いから。お願い」
彼女は何も言わない。首も振らない
「いい?」
僕は彼女の垂れた前髪を掬おうとした
僕の手は彼女の髪を、体をすり抜けた
「ああ…」
僕は初めて彼女の前で泣いた
彼女には触れられないんだ
愛しい人に触れられない事がこんなに悲しいことなんて
「ごめん。こんな時に泣いちゃって」
「お~いまだか?」
父の声が聞こえる
「ごめん。もう行かなくちゃ。じゃあ」
僕はそれから振り向くことなく車に向かった
彼女が後ろから手を振っているような気がした
僕は自縛霊に束縛されている
でも
それでも良いんだ
いつかまた帰ってくるから
それまでさよなら
愛しい人
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