一:風色の恋

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『こんにちは、初めまして』  新しくワタシの父となる人は、にこやかな笑みを浮かべて握手を求めてきた。  鉄黒色の瞳は、とても優しそうだ。  少し躊躇したけど、ワタシはその手を取り、握手を交わした。  その手は温かくて、大きくて、自分に父ができるという実感がわいてきた。  ワタシの母は、再婚した。  相手も再婚らしい。  お互い、こぶつき再婚。  母にはワタシ、向こうには──。 『こんにちは、梨奈(りな)。オレのことは今日から「お兄さま」と呼ぶように』  目の前に、紅黒色の艶のあるさらさらと流れるような髪に、鉄黒色の瞳の男の人が立っている。  少し小馬鹿にしたような不遜という言葉が似合う表情で、ワタシを見ている。  新しく父になる人と同じ瞳の色をした、楓那津(かえで なつ)。 『なに言ってるのよっ!? 那津でしょう、那津っ』  母から 『かっこいい那津って名前のお兄さんができるわよ、梨奈』  と事あるごとに言われていたから喜んでいたのに。  目の前に立つ男は、傲岸不遜な態度の、嫌な男。 『兄の名前を呼び捨てで呼ぶとは、オレが兄となったからには、許さん!』  と訳の分からない持論を振りかざされた。 『なにが兄よ! 誕生日、数日しか違わないじゃないの!』 『それでも、オレの方が先に産まれたんだから、兄には違いないだろう?』  間違いではないけど、その言い方が腹が立つ。  那津とワタシは数日違いで産まれた。  だけど、那津は三月生まれ、ワタシは四月生まれ。  数日しか違わないのに、学年が違ってしまう。  それだけで兄面されるのは、癪に障る。 『絶対に「お兄ちゃん」なんて呼んでやらないんだからっ!』
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