一:風色の恋

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「梨奈、どうしたの?」  朝、登校してひとっ走りした後、授業が始まるまでと思って自席で突っ伏していると、悪友の七海(ななみ)が声をかけてきた。 「どうしたもなにもないわよ」  学年が上がるタイミングで再婚して、それと同時にワタシの苗字も変わった。  この思春期の多感な時期を一応考慮してくれたらしいけど、那津は中学から高校のタイミングだし、そもそも苗字は変わらないからいいけど、ワタシは学年が変わるだけで苗字が変わるのだから、その複雑な心境を少し察してほしいわよね。  そんなワタシの乙女心なんてなにも考えてくれていないようで、那津は名前じゃなくてお兄さまと呼べ、だなんて。  ほんの数日の差じゃないの、ほんとにっ!  春休み中、ずーっと那津はワタシのことを馬鹿呼ばわりしていた。  どうせワタシは陸上馬鹿ですよーっだ!  兄として宿題をきちんとやって行かないのは恥ずかしいから、とべったりとくっついて宿題を見てくれるのはいいんだけど、なかなか問題が解けないのを見て、那津は馬鹿馬鹿言ってきた。  リビングに置かれた座卓に向かいあって宿題をしていたんだけど、那津はさらさらと宿題を済ませ、さらにはなにやら予習らしきことまでやっていた。  その横でワタシの宿題を見てくれていたんだけど。  那津の解説は学校の先生よりも分かりやすくていいんだけどさ。  いちいち人を馬鹿にしたような態度がとにかく気に入らないのっ!  義父は優しくていつもにこにこしているけど、母とはなにかあるとすぐにけんかをしていた。  ……主に母から突っかかって、なんだけど。  義父はただ単ににこにこしている頭のゆるい人なのかと思っていたら、言うことは言うようで、それが的確すぎて母は言い返せずに余計に激怒していた。  なんだろう、けんかするほど仲がいい、とは言うけど、端から見ているといつもけんかばかりしているから、どうして今更になって結婚なんて選択を選んだんだろう、と疑問に思う。
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