そして10年後

21/25
前へ
/390ページ
次へ
「それは構わへんけど、それやったらこの家にもあるはずやで」 「えっ!? DVDあるの?」 「絶対あるかは分からへんけど、たぶんあるはずやで」 「何っていう名前?」 「え~~~~~と……なんやたっけ」 「ジュンちゃん!」 「いや、ちょ、ちょっと待って思い出すから」 年間何十枚と出す作品の中の一枚を、正直いちいち覚えていないが、あれは特殊な作品だから、もちろん全く覚えていないことはない。 氷室は頭をフル回転させ、十年前の作品のタイトルを思い出そうとした。 「確か……」 氷室はペンと手帳を取り出し、タイトルを書き込む。 「美緒にはまだ読まれへんと思うけど、これと同じ字のヤツ探してみぃ。なかったら今度来るときに持ってきたるから」 書いたメモを破り美緒に手渡す。 「パパとママに見つからんようにな」 「うん」 「何やってるんですか?」 突然後ろから話しかけられた。 「うわぁああ!」 氷室は本気で驚いて、大声をあげる。 「な、何!?」 その声に今度は勝彦が驚いた。 「ビックリするやん!」 「いや、そんなに驚くとは……」 「あかん。心臓が痛い」 「ちょっと大丈夫ですか?」 勝彦が慌てる。 「大丈夫。そのコーヒー飲んだら治りますわ」 氷室は勝彦が運んできたコーヒーを指差しながら、何とか誤魔化せたとホッとした。
/390ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1616人が本棚に入れています
本棚に追加