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「まほう――つかい――?」
魔法使い?
いや、流石にそれはないだろう。いくらなんでも――。
と。そこで僕の脳裏によぎるのは、あの光景。キス……じゃなくて。ぐちゃぐちゃに潰れた僕の体が、さも当たり前のように修復されたあの光景。
あれが、魔法――?
「……その目、疑っていおるな? 全く。普通の人間は自分で見たものしか信じないと聞き及ぶが、まさか見たものすら信じないとは……。一体お前等は何をもって信としているのじゃ? ――まあよい、見ておれ」
そう言って、アザレナは僕がさっき取り損ねたゲーム機を持ち上げた。近年小型化が売りにされているそれも、彼女の小さな手のひらの上では文字どおり型なしだ。
そして、
「ふん」
そう彼女が、おおよそ女の子には似つかわしくない気合いを入れると――ゲーム機が、燃え上がった。
それはもう景気よく、僕の大切な友達が炎に包まれていた。色々言いたい事はあったけど、まずは――
「普通にびっくりだけど、どうせならスタンガンの方を燃やしてほしかった!」
そんな僕の叫びも虚しく、ゲームは燃え尽きる。燃えカスすら残らない程に。それは、燃えると言うよりは消滅と言った方が正しいのかもしれない。それ程、僕の友達は跡形も無く『消えた』。
「――これで、信じる気になったかの? なんならもっと――」
「いや、いいです! 私めが愚かでした十分理解できました!」
「うむ、分かればよいのじゃ」
そう言って満足気に頷く彼女を見ていると、何故か良い事をした気持ちになってくるから不思議だ。
というかいい加減、靴を脱いで、ベッドから下りてください。
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