其ノ壱

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「え、と。アザレナさん?」 「アザレナでよいぞ」 「それはどうも。いや、そういう事じゃなくて、今のはただひよっただけで……って、何言ってるんだろう僕」 「どんまい」 「爽やかに慰められた!」  ていうか、股の間から身を乗り出されているこの体制はかなり危ない。まるで僕が金髪幼女を部屋に連れ込んでにゃんにゃんさせてるみたいじゃあないか(僕の名誉の為に言っておくが、僕にそっちの気は全然ない)。  それにしても、それにしてもだ。こうしてまじまじと見つめると、やっぱりアザレナは理性が吹き飛びそうな程可愛い。  何というか、三、四年後この娘が成長した姿を想像しただけで、世界を救いたくなるくらいの可愛さだ。  いや、まあ、それは今はおいといて。 「どうして僕がお前を殺さなきゃいけないんだよ? 一応言っておくが、僕は未だダンゴムシすら触れない程のチキンハートを有しているぞ。因みに喧嘩には一回も勝った事がない。いや、そもそも一回もした事が、ない!」    ……自分で言っていて情けなくなってきた。  しかし、アザレナはそんな情けない僕をじっと、それこそ吸い込まれそうな紅色の瞳で見つめて、 「忘れたのか? 儂は、お主の命の恩人だ。故に、お主には儂の言うことを聞く義務があるのだぞ?」  そう言った。  正論だった。  そして、何より暴論だった。 「それに、お主は儂の唇をあれだけ激しく奪ったのじゃ。何を要求されても文句はいえまい?」 「勝手に記憶を湾曲させている!? 奪ったんじゃなくて奪われたんだよ畜生! 僕のファーストキスを返せ!」 「何じゃ、お主童貞だったのか」 「話が二段階くらいすっ飛んだよ!」  その通りなのがまた悲しい。 「全く、女も知らんとは我が使い魔ながらにして情けない」  そして意外と掘り下げられていくこの話題。 「儂が教えてやってもよいが、さっきからこんなにも美少女が寄り添っているというのに〇たないしのう」  遂に伏せ字が使われだした。ていうかやっぱりワザとだったのか。 「……お主、もしかしてIPT(いんぽてんつ)か?」 「くると思ったよその振り! けれどこの場合〇った方が問題だろ!」 「さて、話は戻るが」  「嬉しいはずなのに何か悔しい!」  アザレナ・アベンツェル。突然僕の前に現れ、騒然と僕の日常をかき乱し始めた彼女は、やっぱり変わった娘だった。
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