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「とにかく、僕は絶対にお前を『殺さない』。他は何を要求されてもいい、でもそれだけは絶対に、聞かない。死にたいなら自分で勝手に――」
言いかけて、何を言っているんだと僕は言葉を切った。
例え直接的でないにしろ、死ねと。僕は彼女にそう言おうとしたんだ。
おぞけがした。と同時にどうしようもない怒りが沸いた。僕はここまで腐った人間だったのかと、鏡の中の自分を殴りたくなった。
それでも、彼女はたいして気にした様子もなく――思わず立ち上がった僕を座ったままで見上げながら冷ややかに口を開いた。
「それができるならとっくにそうしておる」
言葉は、続かなかった。
ただ、重苦しいだけの沈黙がのしかかる。
今の僕には『彼女は何なんだろう』という疑問はもはやどうでもよかった。ただひたすら『彼女はその小さな背中に何を背負っているのだろう』それだけが頭を、巡る。
「まあ――」
――やがて、先に口を開いたのは意外にもアザレナだった。
「遥が嫌と言うのなら仕方がないのう。儂も明確な殺意を持って殺されたいし」
うっわー。どういう願望だよそれ。
さすがの僕もちょっと引いてしまった――って。
「あの、何をしておられるのですかアザレナさん?」
もぞもぞ。もぞもぞと僕の布団に、さも当たり前のように潜り出したアザレナさん。貴女は何をしていらっしゃるの?
「寝る」
「いやいやいや、何で今の話の流れでそうなるの!?」
「……うるさいのう。せっかく気持ちよく眠っておったというに」
「寝るの早っ!」
早いとかいうレベルじゃない。まさかワンツッコミの間に寝れるとは、恐るべし、
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