其ノ壱

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 さてと、落ち着いた所でゲームでもしますか。  そう思って手にとったのは、ゲーム機ではなく痴漢撃退用超高圧電磁砲(要約、スタンガン)だった。  ……どうやら、僕は自分でも思っている以上に全然落ち着けていなかったらしい。  ていうか何で僕の部屋にこんな物騒な物が!?  畜生! またあの親父の仕業か!  そう、僕の父親は、人を傷つける道具が大好きだ。具体的には、刃物、モデルガン、痴漢撃退グッズ、狩猟用捕獲器、ごうも(自主規制)、などなど。  普段は人の悪口も言えないような『思考』の持ち主なのだが、いかんせん、まるでその反動であるかのように『嗜好』がかなり危うい。  父さんは言う。  父さんはな、人を傷つける為にこんな物を集めているんじゃない、お前達を――大切な家族を護る為なんだよ、と。  悪きも言い方だなっと思う。まあ、別に問題さえ起こさなければ人の趣味をとやかく言うつもりはないが、息子に自分の趣味を伝染させる為にさりげなく何かしら置いていくのは止めてほしい。  具体的には――  と。そこで、突然僕の頬を一迅の風が撫でた。六月初じめ、生暖かい風。見ると、空いた窓から鋭い三日月が覗いている。窓、開けたっけ――?  そう思った、その時。 「これまた、ずいぶんとしけた部屋じゃのぅ」 「――!?」  心臓がはねあがった。  それはもう、体を突き破らんが如く、はねあがった。  振り返る。それはもう、首がねじ切れんが如く――以下略。 「な――な――な――」 「機動戦艦ナデシコ?」 「違う! 何でそこで歴史に残る名作アニメが出てくるんだ!」  ほんの少し、本当にほんの少しだけ、もしかしたら話が合うかもしれないなどと思ってしまった。
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