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兎月がこのヘブンゴートに連れて来られたのは、ほんの数週間前の事だ。
十字架を握り締め大きな門を見詰めていた。
兎月の住んでいた町は、貧しかった。
教団は、金の投資が出来ない地域は、若い者達を男女問わず連れて行く。
そのため、長い期間の中でどんどんと居なくなり、遂に兎月の番が廻って来たのである。
「…サヨナラ」
ポツリと家族や知り合い達に呟いた。皆、何も言わない。
もう、絶対に会うことも帰ってくることも出来ないから…。
「…兎月…」
そんな中、ある一人が口を開いた。彼は、桐岬 梼(キリサキ ユズ)。兄のように慕う数少ない親友だ。既に歳は、二十歳を越えているため連れて行かれることは無い。
「…コレ、持っていけ…」
梼は、そう言って手を開いた。そこには、一つの十字架のついたネックレスだった。それは、梼がいつも大事にしていたものだと知っていた。
「梼…ありがと…」
ゆっくり梼と抱擁を交わす。梼にしか聞こえない声で行きたくないと呟き涙を溢す。そんな兎月に梼は、囁く。
「必ずいつか連れ戻すから…。
待ってろ…兎月」
兎月にしか聞こえない声に涙で頬を濡らしながらコクリと頷いた。
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