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「贄番号1125。それが、今日からお前の名前だ。
以前の名前を捨てろとは言わない。
だが、忘れろ」
突然、降って来た言葉に動揺する兎月。
「ハッ?…何言ってるんですか」
理解が出来ない。
町も家族も知り合いさえ手放した僕から、名前さえも取り上げようと言うのか…。
「…これは、頼んでるんじゃない。
ヘブンゴートでの命令だ」
冷たく、緤呀は兎月に言い放つ。その視線に身体が凍り付く。
兎月の目尻から涙が溢れた。そんなこと気にすることもなく緤呀は、兎月の細い腕を無造作に引っ張った。
「早く来い。
こんなことに時間を割くのは無駄だ。
此処に来た以上もう逃げることは無理だからな。そんなことは、お前も解っていただろう?」
緤呀は、切れ長の見下すような瞳を向けた。
「……………」
何も言わない兎月。その白い頬を雫が伝う。
緤呀は、フッと鼻で笑うとズルズルと引き摺るように兎月を引っ張って行った。
カツン、カツンと靴を鳴らす。そして、緤呀の足が唐突に止まった。兎月がゆっくりと顔を上げた。
緤呀がドアノブを回す。キィと鈍い音がして、部屋のドアが開いた。
「…ここがお前の部屋だ」
緤呀がそれだけ言った。
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