23人が本棚に入れています
本棚に追加
失敗した。
何も喚べなかったのだ。
サモナイト石は砕け、砂のようになった。
すごく悔しかった、母は簡単そうにやっていたのに。
召喚術は一般人の成り上がりにだって使えるのに。
正統な召喚師の血を継ぐ私に使えないなんて……
涙が溢れた、次々に涙が地面に落ちた。
母が駆け戻って来て、杖を回収すると、
「どんまいっ!」
一言だけ言って、私の腕を掴んで軽く引っ張り帰るように促した。
思えばこの日からだ。
私が本気で召喚師を目指したのは。
それまでは漠然と言うか、なんとなくというか、親にやれって言われたからやるっていうか……
召喚術に興味はあったけどやる気や真剣さはあまりなかった。
でも、私は負けず嫌いだ。
とにかく悔しかったあのときから真面目に勉強した。
今ではきちんと安定して召喚術も使えるようになった。
「クリスお姉ちゃん、何やってるの?大丈夫?」
「ユウノ……大丈夫だよ。ちょっと考え事。何か私に用事?」
「ミーアお姉ちゃんが明日のパーティー用のドレス着てみてって」
私は今、自分の住んでいるアプレイン邸の一角であるテラスに居る。
お洒落なテーブルと椅子が何セットもあってちょっとしたカフェみたいだ。
私はよくここでくつろいで(昼寝して)いる。
昼は暖かい日がさし、春や秋はすごく気持ちいい。
夜になったら、月が綺麗に見えて神秘的な雰囲気になる。
私のだいすきな場所。
屋敷からそこへ続く硝子張りの大きな戸のそばに私の護衛獣のユウノが心配そうに私をじっと見ていた。
ユウノはメイトルパのメトラルという種族で肩までの薄い黄緑の髪と伸びかけの小さな角をもつ5歳くらいの女の子。
護衛獣とは本来、自分を召喚した者のボディーガードや身の回りの世話をする為に存在するが、私の場合ユウノは幼すぎて護衛獣というより妹だ。
最初のコメントを投稿しよう!