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振り返ると、メガネ……じゃなかった、黒沢くんがいた。夕焼けがメガネに移りこんで、真っ黒の瞳は隠れている。
「ペアって、ダンスの?」
私はオレンジ色に染まる黒沢くんを見た。
コクン、と首が縦に動いた。
「気、使ってくれてありがとう。でも、前に言ったみたいに、私は女の子とペア組むの嫌じゃないの」
黒沢くんの言葉はとっても嬉しいものだけど、急なものだったから、冗談なんだろうなあって心の端で思った。
「そっか」
黒沢くんはベランダに出てきて、私の横に立つ。背ぇ高いなあ、なんて思いながら、夕焼けに視線をうつした。
「黒沢くんは優しいね」
んーっと伸びをして、そのまま黒沢くんの背中を叩いた。
「それ、ほめ言葉じゃないよ」
困ったように笑い、黒沢くんは大きな手で私の頭をぐしゃぐしゃにした。
「気が変わったら言ってね」
「何の?」
黒沢くんは私から手を離し、
「ダンスのペア」
そう残して、教室に戻った。
「え……?」
冗談かと思ってた。私は不思議な感覚に襲われた。なんだこれ、変なの。胸がドキドキ、持久走をやった後みたいになってる。
髪をぐしゃっと握った。
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