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「ぎゃっ」
理科室についたことに気づかず、教室を通り過ぎた私は誰かにぶつかった。
「ご、ごめんなさい」
後ろ向きのままの背の高い学ランに、私は深くおじぎをした。
「すずー、通り過ぎるなんて爆笑だけど」
教室の後ろのドアから、珠実の声がした。私はそのドアへ、早足で向かう。床はつるつる滑り、やっぱり歩きにくい。
「わかってたなら止めてよ」
すでに席につき、腹を抱えて笑い声を必死に我慢する美佳を、むうっと見る。
「い、や、まさか通り過ぎるなんて……予想外」
途切れ途切れに言葉を発する。
「すずも座れば?」
美佳の向かい側に座る珠実に促され、私は美佳の隣に座った。
「ツボ入った……」
笑い上戸の美佳は、その後も私を見ては、我慢できずに吹いていた。
そのたびに私の顔は赤くなっていった。
「そこまで笑わなくてもいいじゃん」
美佳は「ごめっ、」と言いながら、体を震わせていた。
人にぶつかったと言ったら、この倍は笑われるのだろうか。
耳までもが赤く染まった。
「きりーつ」
チャイムが鳴り、号令がかかる。
私は髪を手で梳かしながら、礼をした。
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