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『ず…と………、い……でも、…じてる』
ぶつぶつと壊れたラジオのように、頭に声が響いた気がした。
何を言っているのかはわからない。
また自分は夢と現実の区別ができなくなっているのかもしれない。
でも、どうしても頭から離れてくれない。
夢だと思い込むことができない。
そして自分自身、それを否定しようとしていない。
頭を抱えて、その場にうずくまる。
自分ではどうしようもない感情の奔流が体の内側から徐々に自分というものを壊していこうとしているみたいだった。
俺は、何かとても大事なことを忘れている。
それは疑問とか疑念とかじゃなく、間違いなくそうであるという確信。
そしてその確信は、ずきずきと痛む頭を叩いてでも思い出したいという想いを奮い立たせるには十分なものだった。
でも。
そう決意した瞬間、俺の手が誰かの手に包まれた。
顔を上げると、愛香がいた。
俺の家に居候している不幸な少女。
その小さな手が、俺の手をしっかりと握っていた。
ぼやけていた視界が鮮明になり、俺は夢から覚める。
見慣れた部屋に、見慣れた少女。
大丈夫、と首を傾げる少女に俺は首を振るだけで答える。
今の俺の現実はここにしかない。
この空虚に満ちた空間と、つながれた手の温もり。
今はもうそれしか残っていない。
ただ。
とても大切な何かを忘れているという想いだけは、今もはっきりと心に残ったままだった。
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