いつかのどこかのエピローグ

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今日も今日とて、俺はいつもと同じ何一つ変わらない生活を送っている。 寝て、起きて、病院に行って、飯を食べて。 そうしてなにをすることもなく一日が終わっていく。 最近できた小さな同居人の存在も、今ではもう当たり前のようになっていて、今ではただこの目に映る灰色の世界の一部分でしかない。 いつまでこんな生活が続くのか、もしかすると一生こんな風に生きていかなければならないのかと考えるたびに、俺はどうしようもない不安に襲われる。 知っているはずなのになぜか知らない世界が目の前に広がっていて、でもその世界には俺にとって何かとても大切なものがあるはずなのに、いくら手を伸ばそうとしてもまるで雲を掴むようにするすると指の間をすり抜けていく。 そんな、自分の想像や妄想を現実のものと勘違いしようとしている馬鹿みたいな自分は、客観的に見てとても滑稽だろう。 夢から覚めて、それまで見ていた夢を現実に重ねてしまう。 夢の中で目の前にあった金銀財宝が、目が覚めた瞬間消え失せて、それをきょろきょろと探してしまうような。 夢の中で空から落ちて、地面に叩きつけられたと思った瞬間に目覚め、それが夢でしかないのに心臓がどくどくと脈打ってしまうような。 そんな、夢と現実とを区別できない自分がいる。 その事実は、少なくとも自分がまともな人間でない証のようであり、少なからず自分が夢を見ることができない大人ではないことの証でもあるようだった。 そんな折。 俺の部屋にある本棚の隅の隅。 俺は一冊のノートを見つけた。 他の本に押しつぶされて、部屋を大掃除しようとでも思わない限り手を付けることがないであろうその場所に、その一冊のノートはあった。 表紙も名前も書かれていない、日に焼けてすすけた色のノートの中身はしかし、その外装とは打って変わってとても綺麗だった。 まるで、一番初めに俺が手に取ってくれるのを待ち望んでいたかのように。 内容は酷く平凡なもので、これと言った特徴もないただの小説。 適当にぱらぱらとページを捲っていくと、最後の最後に気になる名前を見つけた。 この小説を書いた本人であろう名前。 ただそれだけのはずなのに、俺は何度も何度もそのの名前を繰り返し目で追っている。 俺の記憶にそんな名前の人物は思い当たらない。 そのはずなのに、どうしても目が離せなかった。
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