いつかのどこかのエピローグ

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自分の知らない所で自分にとって大事な何かが決められていく。 そこに俺の意思は存在しない。 それは、俺にとって許せないことのような気がしたが、だからといってどうすることもできないことが歯がゆい。 でも、とても楽だという気持ちも確かにある。 考えなくていいのだから。 任せてしまえばいいのだから。 そこに自分の意思がなくたって、最善の答えでなくたって、ただ生きていくということだけを考えれば、それほど簡単なことはない。 きっと両親も俺の脳の障害のことを考えて、これからどう向き合っていくかを考えてくれたんだろう。 そこにはなんの疑いもない、優しさだけがある。 そして、優しさしかない。 いつだったろうか。 俺は妹に優しい人になってほしいと頼まれたことがあった。 その記憶は、確かに覚えている。 でもその後。誰かに、一緒に優しい人になろうと手を差し伸べられたような気がする。 それが誰だったか思い出そうとすると、急に頭が痛みだした。 テレビの砂嵐のように、目の前がちかちかと点滅する。 記憶は記憶として、もう思い出したくないと体が訴えているようだった。 でも俺は、その微かな記憶の中で少なからずこう思っていたんだと、頭が勝手に紡ぎだしていた。 『一緒に優しくなろうと言ってくれた君に僕が初めて声を掛けようと思った理由は、僕がほんの少しでも君に優しくできていたら、いつも一人ぼっちで、いつも泣きそうだったその顔を、笑わせることができたんじゃないかって思ったから』
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