ご法度

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「羽生ちゃん、ちょっと来て!」  気分――というよりも機嫌が悪い恭は、さっさと家に帰ろうとバッグを持って教室を出ようとしたところを、松雪に呼び止められた。  苗字の響きが好きらしく、松雪は恭のことを"羽生ちゃん"と呼ぶ。  もう慣れてしまったその呼び方に恭が振り向くと、松雪が手招きをして待っていた。 「羽生ちゃん、これ井草先生に渡しといてくんない?」  恭が教卓に近付くと、松雪は束になったプリントを手渡した。  自分で渡せば良いのに、と恭が松雪を見上げると、恭の言いたいことが分かったのか彼は口を開いた。 「オレ今色々あって忙しいからさ。羽生ちゃんちょうど目の前にいたし」 「……じゃあ、渡しておく…」  "井草先生"ではなかったなら、もっと快くこの役割を引き受けていただろう。
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