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すげぇ無駄にメガネが似合う親友の顔を思い浮かべ、げんなりする。
1月1日、時刻は午後9時。約束の時間を1時間もオーバーし、軽く僕の怒りも沸点をオーバーしていた。
言ってやろう。遅れてきてヘラヘラ笑っているだろう冬木に、僕のかじかんだ手を見せながら、「てめぇのせいで凍傷だぞ! どうしよう?」とギャグをかましてやろう。―――余計に寒くなっていよいよ人命に関わるかもな。
そんなくだらない事を考えているときだった。
凍える僕の身体や、苛立ち始めた心や、耳を通り過ぎる冷たい風や、向かいにある高層マンション、すべての物を静止させるような、『唄』が聴こえてきた。
「―――っ」
例えばそれは、水面に雫を落として広がる、綺麗な波紋のように。
例えばそれは、初恋に似たとても甘酸っぱい感覚が、徐々に広がっていく想いのように。
例えばそれは、寄せては返す、波間の白い飛沫のように。
例えばそれは、戦火に苦しんだ死者を眠らせる鎮魂歌のように。
例えばそれは、青春を謳歌する学生に吹く、頬を撫でる風のように。
例えばそれは、都会の喧騒から離れた、新緑に囲まれた大自然の地のように。
例えばそれは、46億年という莫大な歳月を経た地球のエネルギーのように。
例えばそれは、誰にも計り知れない、気の遠くなるようなほど昔の、宇宙の起源の始まりのように。
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