序章~覚者の夜明け~

2/6
前へ
/6ページ
次へ
頬に傷がある男が丘の上に立っている。 夜明け前。 その姿は闇に覆われて、はっきりとは目測しがたい。 ただ、彼が見下ろしている村、『ジダンダ』の者で無いことは確かだ。 夜目にも明るい赤髪がそれを物語っている。 夜が明ける。 男に動きはない。 その姿は今しがた昇ってきた一つめの太陽によって、徐々に鮮明になってゆく。 死人のように白い肌。 それと対照的な、赤く、風によって無造作にとなびく髪。 黒いマント。 身の丈ほどもある大剣。 スッと高い鼻。 尖った耳。 髪と同じ、赤銅色に光る眼。 そして、頬に負った傷。 …エルフ。 男は相変わらず村を見下ろしている。 男の唇が微かに動いた。 口角を持ち上げ、微笑むかのようにした。 だが実際は違う。 ドロドロとした殺気が彼の目から、口から、そして傷から放たれていた。 積年の恨み。 長年の忍耐。 …発見の喜び 風の様に 男は消えた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加