薬という名の毒

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「それじゃ、これは毒なんですか?」 「いいや、それは薬だよ」 「へぇ…何に効くんですか?」 「ダメだよ、飲んだら腹痛になるから」 「それじゃ、これは毒なんですか?」 「いいや、それは薬だよ」 「へぇ…何に効くんですか?」 「ダメだよ、飲んだら貧血になるから」 「それじゃ、これは毒なんですか?」 「いいや、それは薬だよ」 「へぇ…何に効くんですか?」 「ダメだよ、飲んだら近眼になるから」 「それじゃ、これは毒なんですか?」 「いいや、それは薬だよ」 「へぇ…何に効くんですか?」 「ダメだよ、飲んだら虫歯になるから」 「じゃあ毒だろ!!」 後輩はツッコミをいれた。 「じゃあ毒じゃないですか!」 「違うよ、薬だよ」 「お願い先輩、毒って言って(泣)」 嬉しそうにビーカーを覗き込む先輩を、後輩は本気で心配した。 「何を言っているんだ。薬なんて毒を薄めたようなもんだろ」 「そうかも知れませんけど…」 「なら毒も薬だろ」 「『薬』と『毒』が別単語になってる理由、知ってます(汗)?」 「…ぇ? あ、ごめん。聞いて無かった」 「この流れで、どうして無視出来るの?!」 一応言っておくが、先輩の方が先輩だ。バイトでみられる『年下の先輩』とか『年上の後輩』とかいう奇妙な現象は一切無い。 「…よし、ようやく終わった。少し休憩しよう。何だか君がイライラしているようだし」 「そうっすね。薬の事ばかり考えていたんで」 彼の必死の皮肉も、先輩は『ハハハ』で済ませた。 「コーヒーいる?」 研究室にコーヒー、これは世界の常識だろう。 「それよりも先輩、この間の…」 「あぁ、あれか! 君も食い意地が強いなぁ!」 2人はニヤニヤ笑いながら、側のロッカーから、何か入ったタッパーを取り出した。 「この研究室名物! 味噌汁だ!」 訂正する。ここに世界の常識は存在しない。
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