薬という名の毒

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「話は変わるけど、この間の新薬実験はどうだった?」 味噌汁用のお湯を沸かしながら、先輩が尋ねてきた。 「完璧っすよ、あれは。いつ市場に出てもおかしくないくらい!」 「そんなに?」 思いもよらない成果に、2人は興奮する。 「まず着眼点が素晴らしい! 重い病気になると食欲不振、体調不良によってやつれ、体重が減る。つまりこの症状を軽減、或いは解毒化したものを服用すれば、自然現象によるダイエットが可能! 先輩じゃなきゃ、思い付きませんよ!」 「おいおい、褒めても何も出ないぞ」 そう言う先輩の顔からは笑みがポロポロこぼれている。 「動物実験も念入りにやりましたからね。見るからに肥満でコレステロール満載な動物達が、みるみる健康になっていくのはもう、もう!」 「メダカ、カエル、イグアナ、ニワトリ、イヌ、ネコ、ブタ、サルに試したやつだな?」 「はい。メダカもカエルもイグアナもニワトリもイヌもネコもブタも、みんな元気一杯ですよ!」 「それは凄い! サルは?」 「サルは死にました」 「全然ダメだな」 「全然ダメでした」 2人の溜め息がぴたりとハモった。 「…え、じゃあ何で人間も大丈夫って思ったの?」 「いや…サルがダメだから、逆にオッケーかと思って」 「逆にか、なるほどね。それで結果は?」 「試験者全員腹痛を起こしました」 「あの結果で死ななかったんだ。逆に凄いな」 「だから逆に、販売許可が出るかと思って」 「無い」 「『薬は毒』なら『毒は薬』という、先輩の理論…」 「無い」 完全否定される後輩。彼は先輩から、作り立ての味噌汁を受け取った。 「ま、くじける事は無い。粘り強く研究を重ね、認めてもらう。それが私達研究員だ」 「頑張ります」 決意を新たにする後輩。彼の飲む味噌汁は、何だかしょっぱかった。
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