薬という名の毒

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「良いか? 下手な動きさえしなけりゃ、危害を加えるつもりはねぇ。今、警備員がそばを歩いてるんだ。うまくやり過ごしゃ、ちゃんと出て行ってやるから、静かにしてろ」 男はそばのソファに腰を下ろした。後輩は緊張のあまり、開いた口を塞げずにいたので、代わりに先輩が応答する。 「つまりこのテレビは、口止め料という事かな?」 「察しが良いじゃねぇか。隣りの部屋からパクったのは良いが、そいつがあまりにも重かったからな。捕まったら元も子もねぇ、くれてやる」 「それはありがたい。ここのテレビはブラウン管の古いやつで、地デジが見られなかったんだよね」 上機嫌で早速コードをつなげる先輩。贈り物が喜ばれて嬉しかったのか、この泥棒の男はさらに話しかけてきた。 「本当は、この部屋にも入ろうとしたんだが、お前らがいたから止めたんだ。あぁ、安心しな、何もしやしねぇよ。強盗は御免だからな」 「でも、一言でも喋ったら、泥棒も強盗ですよ?」 「何も聞かなかった事にして下さい、お願いします」 それを聞いて、深々と土下座をする強盗。 「大丈夫。何も言いませんよ」 「本当か?!」 「こうやって、口止め料も貰った事だし、ね」 「それなら話は早ぇ!」 途端に泥棒は態度を大きくした。 「お前も、そんなにビクついてんじゃねぇよ。もっと落ち着け」 「あ、はい、ごめんなさい、万引きさん」 「落ち着け!」 「くそ、まだうろついていやがる」 扉に耳をあて、廊下を確認する泥棒。当分出歩くのは無理だろう。少し諦めたような顔をして、彼はソファへ戻ってきた。 「ところで、これは何だ? さっきからチラチラ目に入ってきて仕方がねぇ」 ふと彼は、机の上のビーカーの話題に触れた。 「これ何の薬だ? いや、毒か?」 「薬ですよ」 「何に効くんだ?」 「腹痛、貧血、近眼、虫歯になる」 「…え、あれ? なる? なるの? 毒?」 「あなたも同じ事を言いますね。薬に決まってるじゃないですか」 「…まぁ、しばらくいるだけだから、知ったこっちゃねえけどさ…」 泥棒の顔は明らかに曇っていたが、先輩は『ハハハ』で解決した。
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