薬という名の毒

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ちょうどその時、ドアからノックの音が聞こえた。 「研究所の者です、データ採取に来ました」 泥棒は拳銃をちらつかせ、外の男をやり過ごすよう仕向ける。 それにも関わらず、先輩は扉へ向かおうとする。泥棒は慌てて彼を引き止めた。 「あの…やめて? そうやって、ほいほいと外の人と会うのは…なあ?」 話をふられた後輩は、何度も頷いた。 「しかし…外の彼が来るのは分かっていた事だし、今日私達がここで実験している事も知られているんですよ? 出ない方が、逆に怪しまれます」 「そうだとしても…」 「心配いりませんよ。何せ私達は、こんなに立派なテレビジョンを頂いたんだ。この値段分くらいは立派に働いてみせましょう」 もちろん、それは嘘かも知れない。しかし、本当かも知れない。全ては泥棒の判断に委ねられた。 「…良いだろう。他に逃げ道も無さそうだし。ちゃんと追い出してくれれば、ちょっぴりしか無いが、礼はしてやる」 そう言って顎で指示する泥棒。そのまま彼は部屋の奥、実験用の机の陰に身を潜めた。 「はいはい、今開けます」 扉の外には、白衣を着た数人の男が待っていた。手にはいくつか器材がある。 「それではいつも通り、体温と心拍数、血圧を計ります」 「どうぞどうぞ」 先輩は彼らを、部屋にいれた。測定の準備のため、彼らは器材を次々に設置していく。その時、彼らの仲間が1人、遅れてやって来た。 「チーフ、連れて来ました」 開口一番、そう切り出した彼の背後から、数名の警官が現れた。 「え、嘘?! どうしてバレたんだ?!」 それを見るや否や、泥棒は自ら顔を出した。そこを警官に見つかり、捕らえられてしまったのだった。 「ここに、荷物を盗み、籠城している強盗がいたんで、呼んでおきましたよ」 自慢げなその白衣集団のリーダーに、先輩はほとほと感心していた。 「凄いなぁ…どうしてそれを知ってるんだい?」 「いや、それは…」 困ったような顔をして、彼はもう一度、以前した筈の説明を繰り返した。 「私達は『閉所での研究活動がどのような作用を与えるか』を観察実験している訳でして、丁度同じ条件を満たしているあなたたちに依頼したじゃないですか」 リーダーはさらに付け加えた。 「あと、言いましたよね?『観察のため、隠しカメラをいくつか置かせてもらう』って」
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