桟橋

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夜になる頃には熱も下がり、僕はいつものように梟の声で目を覚ました。 秋にしては少し過ぎるくらいの厚着をして僕は桟橋に向かった。 月には夕べと同じように薄いフィルターがかけられていた。 「あ....」 僕の期待は無惨にも打ち砕かれてしまった。 桟橋に君の姿は見えなかった。 僕の中の写真には夕べから君がいるようになったのに.... 考えてみれば、それは不思議な事だが僕はその理由を探したりはしなかった。 理由なんていらないから.... 桟橋に座り、僕はオクラホマミキサーを口ずさんだ。 風が吹いた。 波の音が聞こえると、木々も揺れ出した。 夢? 違う.... 手に触れる桟橋の古びた木も、森の中で鳴く梟も鈴虫やくつわ虫も.... この肌やこの耳に感じる。 僕の頬に何かが触れた。 君の髪が僕に触れた。 何だかものすごく懐かしく感じた。 君は僕を背中から抱き締めた。 心臓の鼓動がオーケストラに重なった。 夢じゃない.... じゃあ夕べのあれは.... 僕の頭が混乱し始めた時、君の唇が僕の唇に重なった。 「目を閉じて....」 一度離れた唇はそう告げると再び僕の口を塞いだ。 風が止んだ時、君の髪が僕から離れた。 「あの....何故?」 これも本当に間抜けな質問だと吐いてから気がついた。 「嬉しかったから。」 君は僕の隣に寄り添うように座った。
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