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僕は自分の事を君に伝えたかった。
でも何を話していいのか見当もつかずに、小学生の頃、給食がカレーの日は学校を休んだ事があるとか、こっちに来てから同じRPGを7回クリアしたとか、どうでもいいような事を熱心に語った。
君は僕の顔を見て微笑みながら時々僕の腕にもたれたりしていた。
そして僕は不覚にもまた眠ってしまった。
昨日と同じようにトラクターの音が僕に朝の訪れを知らせた。
君はやはり消えていた。
昼過ぎに何気なく外に出ると祖父が農機具の手入れをしていた。
「最近、毎晩どこへ行ってるんだ?」
祖父は、何ヶ月も部屋に閉じこもっていた僕が、例え夜中でも外へ出るようになったのを喜んでくれていた。
「うん、湖の桟橋。」
僕の返事に祖父の手が止まった。
「桟橋....か?」
僕が頷くと祖父は驚いたような顔をした。
普段は穏やかな顔しか見せない祖父の顔が一変して険しくなった。
「夜中の桟橋には....行ってはいけない....ダメだ!」
僕は唐突に声を荒げる祖父に驚いて黙ってしまった。
「桟橋には狐が出る....狐は人を惑わす....騙す....狐に憑かれた者は....皆....」
そこまで話して祖父も黙ってしまった。
狐?
人を惑わす?
その時僕は....いや、その前から僕の頭の中の写真には君がいて、祖父の言葉で余計に君の事を考えてしまった。
狐....
君が狐?
あの大きな瞳も....
サラサラの髪も....
やわらかい唇も....
嘘だって?
僕が惑わされている?
そんなはずはない。
確かに君は不思議だけど....
僕は....
僕は....
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