桟橋

3/11
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
裏山で鳴く梟の声が僕の目覚まし時計になった。 夜の帳が降りると周辺は真っ暗になり、代わりに満天の星が輝き始める。 山間の集落なので、太陽と同様に月が見える時間も短い。 読書やゲームや何かを考える事にも飽きた僕は、月明かりの夜は外に出るようになった。 未舗装の道路を少し歩くと白樺林の中に小さな湖がある。 生い茂った葦の向こうに見える小さなボートが繋がれた桟橋。 僕は月の灯りに照らされ幻想的に映るその場所が好きだった。 桟橋に座り月や星を眺めて、時にはそのまま眠った事もあった。 僕は....何を思えばいいんだろう.... それがその頃の僕をバランス良く生かせておくための呪文みたいなものだった。 その日、空は薄く曇っていた。 月は霞がかかったようにやわらかく、空と湖の境目がわからない夜になった。 それでも僕の頭の中には一枚の写真が記憶されていた。 白樺と葦と今にも千切れそうな紐で桟橋に繋がれた2艘のボート.... その構図の中に違うものが入り込んでいた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!