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「あの....」
それだけの言葉を口から送り出すのに僕はどれくらいのエネルギーを消費したんだろう?
うろたえながら、それでも視線を外せない僕に気づいた君はゆっくりと起き上がり、桟橋の袂に立ち尽くす僕に向かって歩いて来た。
君は裸足だった。
君は僕の正面で立ち止まり、僕に笑顔を見せた。
僕は更に自分を奮い立たせて口を開いた。
「だ、誰?」
緊張という言葉を思い出していた。
それまで僕の記憶に残っていた緊張は、小学校の運動会でリレーの第一走者としてスタートの合図を待った時だけだった。
「うふふ....」
君は僕に背を向けて桟橋に戻って行った。
大人にも子供にも見える....
こんな夜中にという思いがなかったのは、自分にとってこれが当たり前の日常になっていたからだと思う。
むしろ、何故こんな田舎のこんな場所に1人でいるのか、それから何故裸足でどこにも靴や草履が見当たらないのかが僕には疑問だった。
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