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「座らない?」
君は桟橋に座り裸足の両足をブラブラ揺らした。
「う、うん....」
僕はとりあえず落ち着こうと、そして初めて逢った君に弱虫と思われたくないからと、何でもないかのように君の隣に座った。
「うふふ....」
君がまた笑った。
「僕って....そんなに可笑しい?」
「ううん....嬉しいの。」
「嬉しい?何が?」
「あなたが来てくれたから。」
そう言って君は立ち上がった。
「踊らない?」
急に踊ろうと言われた僕は焦った。
『踊る』という言葉は僕の中に存在しなかったから。
「フォークダンスしか知らないよ....」
正確にはそれさえ怪しかった。
オクラホマミキサーとマイムマイムの区別さえ出来ない僕だから....
「それでいいよ....教えて。」
教えてと言う事は....
「君、フォークダンス知らないの?学校でやらなかった?」
君は小首を傾げて笑っていた。
「でも、音楽もないし....」
「あなたが歌って。」
これには参った。
人前で歌うなんて考えられない事だった。
「い、いや....ほら、伴奏もないから....」
「伴奏ならあるよ、ほら耳を澄ませて....」
「え?」
....
君はその大きな瞳を閉じて両手を大きく広げた。
どこからか風が吹いて来た。
水面に小さな波が立っているのが分かった。
木々が揺れ、葉っぱが震えている....
その音が僕の耳にはまるでオーケストラの演奏のように聞こえて来た。
「ね?」
君はまた笑顔を見せて僕の手を取った。
「どうしたらいいの?」
「あ....うん、僕の隣で....右手を肩の上に左手は....」
僕は生まれて初めて誰かに何かを教えるという経験をする羽目になった。
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