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梟の鳴き声を合図に僕は恥ずかしさを堪えながら今にも消えそうな声でラララという音を口から出した。
山のオーケストラと時々入る鈴虫の合いの手に消されながらも僕はそれなりに必死だった。
「うふふ....」
僕の隣で君はまた笑ったが、僕も君も前を向いているのでその表情まではわからなかった。
君の髪が風に揺れて僕の顔に触れた。
運動会や歌を唄うのとは違った緊張感があった。
僕たちは桟橋を行ったり来たりしながらオーケストラの演奏が終わるまで踊った。
風が止んで水面が静かになった時、どちらからともなく足が止まった。
「ありがとう、嬉しかった。」
君は僕の手を握ったままで、また桟橋に座った。
当然僕も君の隣に腰を下ろした。
「ねえ、君は誰なの?家はどこ?帰らなくていいの?....何故裸足なの?」
矢継ぎ早に飛び出す質問に君はその大きな瞳を更に丸くして僕を見た。
そしてまた....
「うふふ....」
でも実は僕自身そんな事はどうでも良かった。
それよりも驚くべき事実がそこにはあった。
この僕が緊張したり、人前で歌ったり....ましてや踊ったという事。
それは今までの僕には一生縁のない世界だったはずだ。
そして一番の衝撃が....こうして女の子と手を繋いで笑っている僕がここに存在するという事だった。
「ふぅ....」
君は僕の手を掴んだままで横になった。
そして君の視線が湖に注がれた時、さっきまで楽しそうにしていた君とは違う君がそこにいた。
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