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一言も話さずに遠くを見つめている君が、それまで僕の頭の中にあった一枚の写真の中に溶け込んで行った....
「また....逢えるかな....」
自分の口から信じられないセリフが飛び出した。
君は上半身を少しけだるそうに起こしながら僕を見た。
「逢えたら....いいね....」
君はそう言いながら僕に顔を近づけて来た....
遠くで聞こえるトラクターのエンジン音と、雀やウグイスの鳴き声が僕を叩き起こした。
「いて....」
体の節々が痛い....
僕は桟橋で眠ってしまった....
君は!?
僕は上半身を無理やり起こして辺りを見渡したが、君の姿はどこにもなかった。
夢?
まだ薄暗い道を家に向かいゆっくり歩いている内にそんな風に思えて来た。
ずいぶんリアルな夢だった....
でも考えたらこの僕が笑ったり踊ったり....
ありえない。
僕の中であれは夢だったという結論を出した。
「あら珍しい。」
僕の姿を見つけた祖母が笑顔を見せた。
「おはよう....」
自分でも愛想がない奴だと思ったが、どうしても笑顔にはなれない。
僕は世の中の大人が嫌いだ。
大人は平気で嘘をつく。
両親も....
教師も....
僕に何も嫌な事を言わない祖父母と暮らすのは楽だった。何かにつけて理由を探し出す両親とは違う。
分かってる....
このままここに....いつまでも居られるわけじゃない。
いつか僕も嫌いな大人になる。
いつか僕も平気で嘘をつくようになる....
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