第三話…名を貪った男。

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『これは失礼を…』 要離は無事な左手で涙を拭った。 『いや…良い。先生、お話を続けてくだされ』 慶忌は先を続けるように促した。 要離は軽く頷くと、また口を開いた。 『私は右手を斬り落とされた後…牢に繋がれましたが、伍子諸により逃がされたのです』 『何?伍子諸がか?』 驚く慶忌に、要離は頷いて見せた。 『伍子諸は内心、晃絽にあいそを尽かしています。 彼は私にこう言いました。 「あのような男を王にすべく働いたのは…全て過ち(あやまち)であった。要離よ…済まぬが慶忌様に逢い、あのお方の考えを聞いてきてはくれまいか?」 …と、彼はそう言って私を逃がしてくれたのです。 もし慶忌様が伍子諸のために仇を討って下さるなら…呉国の臣はこぞって味方になる事でしょう』 『そうか…そういう事が…』 慶忌は瞬間、晴れやかな表情を見せたが… その顔は次第に曇り…遂には難しい顔をし、黙り込んでしまった。 「ふふふ…やはり判断はつかぬか、ここが決めどころだな」 慶忌の様を見た要離は、仕上げにかかった。 『慶忌様!貴方が兵を発して呉を攻めぬなら…呉の君臣はいずれまた仲直りするでしょう! ああ…今こそ好機だと言うのに… 我らの仇が討てぬとあらば、死んだほうがマシだ!』 要離はそう叫ぶと、部屋の中にある巨大な柱に突進し… その頭を打ち、死のうとしたが…それは直前で慶忌に阻止された。 『わかった!そなたを信じよう!』 慶忌が要離に対して発した言葉はこれだった。 要離は捨て身の行動により、慶忌の信用を得て… 腹心として、その懐に入る事に成功したのだった。
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