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女が張儀を見遣ったとき、張儀の口が微かに動いた。
『お…の…た…る…か』
『え?あんた何って言ってるのよ?』
張儀の言葉は、激しい雨音に掻き消されて…聞き取れ無かった。
女は耳を彼の口元に寄せた。
『俺の…舌は、まだあるか?』
張儀はずたずたになりながらも…そんな事を口走っていた。
『ほほほ、変な人ねぇ!
死にそうなのに何を言うかと思ったら!もちろん、まだあるわよ』
女は笑ったが…
張儀は真面目に話していた。
『舌は俺の資本だ、いつかきっと成功してみせる!』
……………………………………
傷が治った張儀は、かつての学友である蘇秦(そしん)が、趙国の宰相になったと聞き、さっそく身を寄せる事にした。
旅の途中…彼は趙国の人で賈舎人(こしゃじん)と言う男と知り合いになった。
『おや?貴方も趙に?では一緒にいきましょう』
二人は意気投合し…一緒に趙国を目指した。
趙国に着いた張儀は、蘇秦にしばらく名刺を渡し続け…
会見の許しが出たのは…彼が趙についてから、五ヶ月後の事だった。
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