第一話…縦横無尽。俺の舌はまだあるか?

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女が張儀を見遣ったとき、張儀の口が微かに動いた。     『お…の…た…る…か』     『え?あんた何って言ってるのよ?』             張儀の言葉は、激しい雨音に掻き消されて…聞き取れ無かった。 女は耳を彼の口元に寄せた。   『俺の…舌は、まだあるか?』 張儀はずたずたになりながらも…そんな事を口走っていた。    『ほほほ、変な人ねぇ! 死にそうなのに何を言うかと思ったら!もちろん、まだあるわよ』             女は笑ったが… 張儀は真面目に話していた。  『舌は俺の資本だ、いつかきっと成功してみせる!』 …………………………………… 傷が治った張儀は、かつての学友である蘇秦(そしん)が、趙国の宰相になったと聞き、さっそく身を寄せる事にした。 旅の途中…彼は趙国の人で賈舎人(こしゃじん)と言う男と知り合いになった。 『おや?貴方も趙に?では一緒にいきましょう』       二人は意気投合し…一緒に趙国を目指した。 趙国に着いた張儀は、蘇秦にしばらく名刺を渡し続け… 会見の許しが出たのは…彼が趙についてから、五ヶ月後の事だった。
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