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穆公は改めて、野人達に顔を向けた。
『そなたら、官職につきたい者がいるか?』
先ほどの野人が答えた。
『いえいえ、わしらは怠惰に慣れております故…』
『ふむ、ならば…金を…』
穆公のこの申し出も、野人達は笑顔で首を振り…断った。
『そなたら、何もいらんのか?それではわしの気が済まぬ』
困り果てた穆公に、あの野人が言った。
『どうしても賞されるおつもりならば…あれを…』
野人はそう言って、恵公を指差した後、自分のヒゲを指差した。
『ん…ほぅ!それで良いのか?はははは!』
穆公は野人のしたい事に気づき、笑った。
『はい、それで充分にて』
野人は刀を取り、恵公へと近づいた。
『や、やめろ!た…助けてくれ!』
縛り上げられ、動けぬ恵公の眼前で刃が煌めいた。
次の瞬間…
恵公の自慢のヒゲは…その顔から消えていた。
三百の野人達は、恵公のヒゲを謝礼として受け、穆公に別れを告げた。
そして…
秦の穆公は、一歩一歩…
春秋の覇者の道を邁進して行ったのであった。
【第二話…三百野人。恩を忘れぬ者達 end 】
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