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穆公の時代から二百年後…
呉の国の新王、晃絽(こうりょ)は…ある事に頭を悩ませていた。
彼は呉の王になるために…先代の王である僚を謀殺して、その一族のことごとくを誅殺していたが…
ただ一人、長男の慶忌(けいき)は…難を逃れて…他国に亡命していた。
この慶忌と言う男…
武勇絶倫にして聡明な人物であった。
彼は、父である呉の先王の仇を討つべく…自らを鍛え、兵を募っていた。
そして…呉の国内にも、先王の治世を懐かしんでいる者が多く…
もし、慶忌が呉に戻って来たのなら…彼らがこぞって慶忌に手を貸すのは必定と言えた。
呉の新王、晃絽の統治は盤石とは言えず…彼は絶えずに慶忌の動向に注意を払っていた。
そんなある日…
彼は腹心の伍子諸(ごししょ)に、ため息混じりで呟いた。
『誰か慶忌を取り除いてくれる者はおらんのか?』
『ふむ…慶忌は万夫不当の人物ですからな、なまなかな人物では務まりますまい』
『やはり…おらんのか…』
ため息をつく晃絽に、伍子諸はおもむろに言った。
『晃絽様…私の食客に一人、面白い男が居るのですが…彼ならば、もしや…』
『慶忌を倒せる男なのか?伍子諸よ、その男をすぐに呼べ!』
『は…かしこまりました。直ちに…彼の者をお連れ致しましょう』
伍子諸はうやうやしく拝礼すると、晃絽の目の前から下がった。
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