第三話…名を貪った男。

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要離が部屋に入ると、そこには満面の笑みを浮かべた慶忌が待っていた。 『要離先生。あなたの話は本当でした…一度はただの食い詰め者か、間者かと思いましたが…どうやら私の思い違いだったようだ、許されよ』 『では…私めを信じて頂けると…』 要離は感に堪えぬ表情を見せた。 『もちろんです。疑った非礼、お許し願いたい。さ…どうかお座りください』 慶忌に促され、要離は上座に座った。 要離を座らせた慶忌は、自らは立ったまま彼と色々と話をした。 その時…要離の目に、部屋の脇に掛けてある幕(カーテン)が不自然に動くのが見えた。 『?』 次の瞬間、訝しがる要離の目に映ったのは… 斧を持った黒装束の男だった。 彼は音も無く跳躍し…その斧を慶忌に振り下ろした。 その斬撃は速く鋭く…要離は声を出す間も無かったが… 慶忌はこれをかわし…その斧を右手の拳の一撃で、破壊して見せた。 『慶忌様、お見事でございます!私はしばらく隙をうかがっておりましたが…やはり毛筋ほども傷を付けれませんでした』 黒装束の男は壊れた斧を小脇に抱え、慶忌にそう言いながら拝礼した。 男は慶忌の指南役であった。 『ははは、指南役よ。ご苦労であった!金十両をとらす!下がってよいぞ』 人間技とは思えぬ武勇を見せ、楽しげに笑う慶忌を…要離は驚嘆しながら見つめるしかなかった。
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