【4】心理捜査官

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警察の車を借用して、紗夜と二人で出かけた休暇の帰り。 取調室の隣室に忘れた携帯を取りに、署へ顔を出した富士本。 マジックミラーの向こうでは、一人の浮浪者が取調べを受けていた。 『証拠は揃ってんだ!黙ってねぇでさっさと吐け!!』 男は刑事の怒鳴り声に完全に萎縮し、うつむいたまま震えていた。 少々精神を病んでいる様でもあった。 『山さん、あんな弱弱しい男が、何を?』 大先輩の古山刑事にきいた。 『今夜公園で男が殺された事件さ。あいつが被害者の財布を持っていた。衣服に付いていた血も、被害者と一致したってわけ。』 『もの取り殺人・・・ですか。普通、浮浪者として生きる人たちは、そんな大それたことはやりませんがね。』 『ああ、だが、こう証拠がそろっちゃ仕方ない。』 『現行犯ですか?』 『いいや、『死ね!』と言った怒鳴り声に通報があり、たまたま近くを見回っていた警官が駆けつける途中、逃げるこいつに出くわしたってことだ。』 『あっちゃ~、人生といい、とことん運のないやつ・・・ん?紗夜?どうしたんだ?』 いつの間にかガラスに手を当て、じっと男を見ていた紗夜。 その頬には涙が流れていた。 『ど・・・どうしたんだ?紗夜。何を泣いてるんだ?』 その時、見えていないはずの男と、見えていないはずの紗夜の目が合った。 紗夜がつぶやく。 『何で、なんであの人をいじめるの?』 『えっ?』 唐突な問いに戸惑う富士本。 『あの人はとても優しいよ。あの人は、病気の友達のために薬が欲しかっただけだよ。』 『紗夜・・・。どうしてそんな。山さん?』 『あ・・・ああ、確かに彼の寝ぐらの隣には、病気の爺さんがいたが・・・』 戸惑う古山。 『なぜ、そんなことが分かるんだね?紗夜ちゃん。』 『あの人が教えてくれたもの。』 マジックミラーの向こうの男を指差す紗夜。 『そんな・・・ばかな?』 盲目の者の一部は、常人とは違う聴覚や感覚を持つという。 富士本は、そんな話を聞いたことがあった。 『おじさん、あの人をいじめちゃだめ!助けてあげて!お願い!!』 小さな少女の涙の懇願に古山が後ずさる。
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