【5】小さな手

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遺体はすでに構内の一室に置かれ、駅はいつも通りに機能していた。 今時『飛び込み』は、日常茶飯事とも言え、特別な騒ぎにはなっていない。 『刑事課の者です。』 宮本が駅員に手帳を見せる。 『あ、はい。ご苦労様です。あれ?あなたは今朝の刑事さん。』 補導員を呼びに行ったあの駅員であった。 『丁度良かった。あの娘が何も話さなくて。』 『今朝はご苦労様でした。やっぱりあの子でしたか。』 そこへ現場検死官の豊川が声をかける。 『こっちだこっち。』 『紗夜さん、今朝ここに?まぁとにかく、さっさと終わらせて帰りますよ。』 『やっぱり…って?』 ふに落ちない駅員を後に、二人は部屋へと入った。 テーブルの上には黒い死体袋が寝ている。 『見て欲しいものって?』 面倒臭そうに宮本が豊川に問う。 『遺体の損傷は思いのほか少ない。彼女は立った状態で正面から衝突。頭部の強打が一番の死因だ。』 『それで?』 催促の一言。 『これを…。』 豊川が袋を開いた。 『うわっ!』 思わず声を出す宮本。 悲惨な死体を見るのは初めてではない。 しかし、女の恐怖に歪んだ顔。 未だかつて、こんな恐ろしい死に顔を見たことがなかった。 『どうしたの?』 見えない紗夜が聞く。 『いや…な、なんでもない。』 『さすがの私も驚きましたよ。でも、見て欲しいものはこれです。』 豊川が女の左手を持ち上げた。 『な…なんだこりゃ?』 『?』 紗夜の顔が説明を求める。 『このアザは、人の手に握られた跡の様だ。しかも、まだついてから数時間のものだ。』 女の手首には、くっきりと手形が浮かび上がっていた。 『大きさから言って、子供だなこりゃ。』 『豊川さん。女の子は無事なの?』 『は?なんであの娘のことを…。無事ですよ。目の前で母親が亡くなったショックからか、何も話しませんけどね。』 『娘が一緒に?だったらこのアザはその娘の…』 言いながらも宮本はバカな発言を後悔した。 『小さな女の子に、そんな力はないわ。』 『で…ですよねぇ。』
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