【2】悲しみの少女

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『クソ!どきやがれ。』 正明の下で男がもがく。 その背後で、もう一人の男が、ヘルメットを降りかざした。 『ガンッ!!』 思いきり降り下ろしたヘルメットが、正明の後頭部を打った。 『うっ…』 意識が遠のき、その体がゆっくり男に重なる。 そこへ、更にヘルメットが打ち付けられた。 『ガッ!ガッ!ガッ!!』 『たっちゃん!もうやめて。死んじゃうよ。』 怯えた声で女が止めようとする。 下の男は、正明の血で真っ赤であった。 何とか抜け出そうとする男。 正明がその男の耳を掴み、ゆっくり上体を起こす。 その顔面へ、最後の一降りが襲った。 『ガンッ!!』 『ぎゃー!!』 下にいた男が悲鳴を上げる。 横へ吹っ飛んだ正明の手には、ピアスと男の耳が握られていた。 『パパッ!!』 開いたコンビニのドアの外に、紗夜が立っていた。 女と血だらけのヘルメットを持った男が振り向き、目が合った。 『くっそー!このヤロウ。』 耳を押さえ、キレた男が正明の顔面を踏みつける。 『ガシッ!ガシッ!』 異変に気付き、店員が表に出て来た。 『ヤベェ、行くぜ!』 慌ててバイクへまたがる。 『バカヤロー!早く乗れ!』 放心状態の女が、我に返り後ろにまたがる。 けたたましい音を響かせて、二台のバイクは、夜の街へ逃げて行った。 紗夜がゆっくり近づく。 『パ…パ…』 『さ……サ…ャ…』 『パパ!』 仰向けの正明の顔は悲惨なものであった。 『サ…ヤ。……』 何かを呟く正明へ、紗夜は耳を近づけた。 『サ…ヤ、お前は何も…何も見なかったんだ。い…いいね。何も。な…に…も…』 それっきり彼の目は、二度と開くことはなかった。 『ぃゃ…。…いヤァー!!パパ!パパ!パパァ!!』 少女の悲しい叫びが響く。 握り締めた小さな手のひらの中で、ロウソクが粉々になる。 その震える黒髪に、初雪がひらひらと舞い降りていった。
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