【2】悲しみの少女

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この夜から、紗夜の心は、目を開くことをやめた。 医者の診断では、ひどいショックにより、脳が見ることを拒んでいる。 とのことであった。 警察官殺人事件として、捜査は夜を徹して行われた。 そして、その2日後、三人の容疑者が捕まり、異例の早さで有罪判決が下されたのである。 ~事件から一週間~ 姫城家のマンション。 見えない目で、砕けたロウソクを見つめる紗夜。 『さっさと食べなさい!』 こげたパンが二枚、乱暴に皿に載せてあった。 紗夜の体が『ビクッ!』と揺れる。 手のひらから落ちたロウソクを拾おうとした手を、智代が踏みつけた。 『いたい!ママ、やめて。いたいからやめて。』 怯えた小さな声でつぶやく。 『いつまでこんなものを持ってるの!もうパパはいないのよ!』 正明が死んでから、智代の精神は壊れ、全く別人になっていた。 ロウソクの袋を拾いあげる。 『お願い、返して。ママ、お願い。ぶってもいいから、返して。』 この頃既に、少女の体は傷だらけであった。 小さな手を広げて差し出す紗夜。 『バシッ』 『アァ!』 テーブルにさしてあった長い菜箸で、その手のひらをぶつ。 『お前のパパはもう死んだのよ!お前が、お前が殺したんだよ!』 『バシッ!バシッ!』 何度も何度もぶった。 智代の目から涙が溢れる。 『返して!私の正明さんを返して!!』 そのまま泣き崩れる智代。 紗夜は、幾スジも血が滲んだ手のひらを握りしめて、その母をじっと見つめていた…。 智世の錯乱はどんどんエスカレートしていった。 そしてある夜。 『富士本です。今、現場に到着しました。』 辺りには大勢の人だかりが出来ていた。 救急隊員に、富士本が尋ねる。 『刑事課の者です。どうですか?』 『ひどい有り様だよ、全く。ベランダから飛び降りた様で、即死だねこりゃ。』 マンションの前に、シートを被せられた智代の亡骸が横たわっていた。 『娘さんは?』 『あぁ、救急車の中にいるよ。目が…見えなくて良かったよ。可哀想に、見つけた時は、ひどく怯えていて、ショック状態だったが、だいぶ落ち着いた様だ。』 『そうですか。』 『さて、どうしたものか…』 困った顔で救急車の方を見る隊員。 『とりあえず私が預かります。あの子の父親に大変世話になったもんで。』 救急車のドアを開ける。 『さあ、心配しないで。おいで…。』
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