序章/運び込まれたモノ

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 血まみれの死体を担ぎ、女性は一人、地下室へと向かっていた。  死体の出血は酷い。肩に担がれたそれから、まるで割れた水風船のように、真っ赤な鮮血が流れ出ている。鮮血が肩を、脇腹を、脚を通り、女性の後に赤い轍を作らせていく。だが彼女は、別に何も気にしてはいない。  やがてたどり着いたその部屋には、ひとつの白いベッドがあった。医療機器のような精密機械に囲まれ、鼻を刺す消毒液のような香りを放つそれは、間違いなく手術用のベッドである。 『よし。それではそいつを、そのベッドの上に乗せてやれ』  女性の耳元にある無線から男の声。それは氷のように冷たく低く、王のように荘厳で深い。  女性は小さく「かしこまりました」と答えると、肩に担がれた死体をベッドに寝かす。  それは少女の死体だった。白いセーラー服を来ている所から、おそらく学生の類だろう。  しかしその腹部には、背中まで貫通した穴が穿たれていた。未だにそこから、際限無く鮮血が溢れ出し、瞬く間に純白のベッドを朱に染めていく。 『ご苦労。よくやった『イヌミミ』。後は僕の出番だ。下がって休んでいたまえ』  再び無線から来た男の声に、女性は静かに礼をした。  その女性を包む衣服は、濃い青のワンピースをベースに白いエプロンを加えたエプロンドレス。そんな彼女のお尻で、ふさふさの犬の尻尾が、気持ち良さそうに揺れていた。
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