弍、二週間前の出来事

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寡黙でいつも冷静、そして剣の腕はあの剣豪沖田と肩を並べるほど。 顔は素晴らしく良いのだが、悲しいかな長い前髪に遮られてその切れ長な鋭い目は隠れている。 黙っておけば美丈夫なのが土方で、黙っている美丈夫が斎藤だ。 原田と同じ副長助勤をしている。 「……小夜…楽しそうに、遊んでいるが…時間は、大丈夫か…?」 斎藤は途切れ途切れの独特な喋り方をする。それにもう慣れた小夜は、しかしその内容に血の気が引いた。 「うわあああ!ヤバイですマズイですっ斎藤さんありがとうございます!!」 小夜は急いで大量の器に向き合うと、超人的な速さで器との闘いに戻っていった。 「……惜しい人材だ…」 小夜の腕前を前に斎藤の一言。ボソリと呟かれたそれを上手く聞き取った原田は苦笑する。 「何、まだ言ってんの?」 「女中にしておくのは、もったいない」 そう、彼女はあらゆる面において超人的だった。家事に掛ける時間もそうだが、その身のこなしも膨大な知識量も、普通の枠にはどう足掻いても入れようがなかったのだ。 「でも近藤さんの指示だし。仕方ないってぇ。小夜ちゃんが女中辞めちまったらオレら餓死しちゃうし」 「……それは、分かっているが…惜しいものは、惜しい」 珍しく粘る斎藤にもうひとつ苦笑いを溢して、原田はあの衝撃的だった一日を思い出した。  
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