参、甘味戦争

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小夜は屯所の門前で箒片手に悩んでいた。沈黙を貫いているのは、偏に対峙している相手の驚愕っぷりが凄すぎて何と声を掛ければ良いか分からないからだ。 小夜は心の中で呟く。 誰だろう、このいい人の代表者みたいな人は。 彼女は自分を見たまま動かない相手を静かに観察した。 縁のない眼鏡が守るのは、一滴の緑の混ざった黒の双眸。細くもなく決して大きくもないそれは、今は驚きに溢れ大きく見開かれているが、普段は常に慈愛に満ちているのだろう。 うっすらと深緑の光を放つ黒髪は緩くまとめられ、胸の辺りまで流れている。 彼の醸し出す柔和な雰囲気がその知的さを引き立てていた。年は30といったところか。 観察を終えたところで、小夜はおずおずと声を掛けてみた。 「……目、乾きませんか?」 彼は瞬きを全くしていなかった。 「え、あぁ、目、……痛っ!」 「あ!擦るのは良くないですよっ」 「ああしかし痛たたたた」 言われて初めて気づいた目の痛みに悶絶する彼を、小夜はどうしたものかと悩んだ。 天然なこの男が新撰組の関係者ということは分かるが、果たして誰だろう。一応隊士全員の顔と名前は把握しているつもりだがこの人は知らない。  
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